草の夢

Release Date: 2016-12-10

男声合唱団 東京リーダーターフェル 1925

90周年事業公募 最優秀作品

男声合唱組曲

草の夢

A Dream of the Grass
for male chorus and piano

詩 竹久 夢二

Words by Yumeji Takehisa

曲 森田 花央里

Music by Kaori Morita

1. 草の夢
2. 悪縁
3. いたみ
4. 美千登世
5. 最初のキッス
6. 月日

premiere

2016年12月10日
すみだトリフォニーホール 大ホール

男声合唱団 東京リーダーターフェル 1925
指揮 樋本 英一
ピアノ  佐藤 季里

草の夢

とけてきえゆく露ならば
恋もわすれてありしもの
おもひみだるゝ人の子は
ながれのきしのしのゝめに
昼はひるとて草の夢。

ゆく水

ゆく水のこゝろ ひとはしらなく
わがこゝろ きみしらなくに。
ゆく水は水 君は君。

越し方

不幸ではあった。
だが幸福でなかったと
どうして言へよう。
誰に言へよう。

求願

与へられぬことを恨むまい。
心からほんとに
すべてを捨てゝ 求めたことがあったと言へるか。

悪縁

そなたばかりが 女ぢやないが。

売られてきた夜、人形を
泣くなくだいてそひぶしの
かみなりさまがこわいとて
より添ふたのが縁となり
それなりけりになりにけり。
そなたばかりが 女ぢやないが。

残れるもの

あの松原がわすれられよか
紫色の帯しめて
松にもたれてまつてゐた
あの娘のことがわすられよか。

その松原はいまもある
そしてその娘もこの俺も
生きて日本にゐるものを。

いたみ

 

ほんとうの心は
たがひにみぬやうに
言はせぬやうに眼をとぢて
いたはられつゝきはきたが
なにか心が身にそはぬ。

きのふのまゝの娘なら
きのふのまゝですんだもの
なにか心が身にそはぬ。

美千登世

あの爪弾の
美千登世に

つひつまされて
ひく障子

影絵のやうな星の空
港のやうな春の街。

足にまつはる伊達巻の
もつれた帯ならとけもしよが
きれた縁ゆゑせんもなや。

最初のキッス

五月に
花ほ咲くけれど
それは
去年の花ではない。

人は
いくたびこひしても
最初のキツスは いちどきり。

月日

月日は流れ身は流れ
かけた望も約束も
流れのひまに忘れつつ。

月日は流れ身は流れ
きのふの人もこの人も
流れのひまに忘れつつ。

月日は流れ身は流れ
はた悲も歓も
流れのひまに忘れつつ。

神の名にかけ願ひし
身はひとつ
去年の五月ことしの五月。